こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田俊樹です。
「最近、人の名前がパッと出てこない」「スーパーに来たけれど、何を買うか忘れてしまった」……そんな、ふとした瞬間の「物忘れ」に、心のどこかでヒヤッとしたことはありませんか?
50代、60代の方から、「親が認知症だったので自分も将来が心配」という切実なご相談を外来でよく受けます。
実は、80歳になっても脳がクリアな人と、認知症が進んでしまう人の間には、医学的に証明された「決定的な生活習慣の違い」が存在します。

今回は、家庭医療・総合診療の専門医としての知見と、世界最高峰の医学誌が認めたデータに基づき、一生ボケない脳を作るための「4つの習慣」について詳しくお話しします。
認知症の40%は、あなたの手で防げる
目次
「歳だから仕方ない」と諦める必要はありません。世界で最も権威ある医学誌の一つ『ランセット(The Lancet)』の委員会が2020年に発表した大規模な調査報告によれば、認知症の全症例のうち、なんと「約40%」は生活習慣や環境を整えることで、予防したり発症を遅らせたりできる可能性があると結論づけられています。※1

とはいえ、「認知症を予防するために、あれもこれも我慢して10個以上の習慣を変えろ」と言われても、正直、我々医師であっても実行するのは至難の業です。
そこで私は、糖尿病や睡眠の専門知識を総動員し、12のリスク要因を効率よく解決できる「4つの習慣」に絞り込みました。
この4つを整えるだけで、脳を守るドミノが一気に倒れるように、将来のリスクを効率よく摘み取ることができるのです。
脳を若返らせる「奇跡の栄養剤」と足の意外な関係
まず一つ目の習慣は、脳の最強の栄養剤である「歩くこと」です。運動をすると、脳の中から「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質が分泌されます。※2
これは、例えるなら枯れかけた脳細胞を瑞々しく蘇らせる「脳の若返り栄養剤」のようなものです。この栄養剤を作るスイッチは、実はあなたの「足」にあります。

「膝が痛くて歩くのは無理だ」「仕事が忙しくて運動する時間がない」という方もいらっしゃるでしょう。
そのお気持ち、痛いほど分かります。無理をして痛みを我慢する必要はありません。実は、椅子に座ったまま足踏みをしたり、かかとを上げ下げしたりするだけでも脳への血流は増え、効果が期待できるのです。
1日1万歩と気負わず、まずは1日4000歩〜6000歩、自分の足で脳に栄養を送り届けるイメージから始めてみませんか?

「耳」と「血糖値」が脳の寿命を左右する
耳のケアが孤立を防ぐ
二つ目は「耳のケア」です。意外かもしれませんが、ランセットの報告では「難聴」が認知症の最大のリスク要因の一つとされています。
耳が遠くなると会話が億劫になり、脳への刺激が激減し、結果として社会的孤立や「孤独」という大きなストレスを脳に与えてしまうのです。
お喋りは最高の脳トレです。少しでも聞こえにくいと感じたら、放置せずに専門医へ相談しましょう。

糖尿病専門医が語る、血管と脳の関係
三つ目は、私が最も重視している「食事の多様性と血糖値の管理」です。
糖尿病学会のデータによれば、糖尿病の方はアルツハイマー型認知症のリスクが約2倍になることがわかっています。※3
血糖値の乱れは脳の血管に直接ダメージを与えるからです。私は年間5,000人以上の糖尿病患者さんを診ていますが、血管を守ることこそが、究極の脳の守り方であると確信しています。
「特定のサプリを飲めば安心」というわけではありません。和食の「まごわやさしい」を意識して、青魚の油(オメガ3)や野菜のビタミンなど、多様な栄養を摂ることが血管を若く保つ秘訣です。サバ缶や冷凍野菜を賢く使い、完璧を目指さず「昨日より一品だけ食材を増やす」という気楽な気持ちが、継続への近道です。
寝ている間の「脳の大掃除」を邪魔していませんか?
四つ目の習慣は「睡眠」です。睡眠はただ体を休める時間ではなく、脳の中の「ゴミ出し」の時間です。認知症の原因物質の一つとされる「アミロイドベータ」というゴミは、深い睡眠の間に洗い流されます。睡眠不足はこのゴミを脳に溜め込み、リスクを爆発的に高めてしまいます。
「加齢で眠りが浅くなるのは仕方ない」と思われがちですが、実はいびきがひどい「睡眠時無呼吸症候群」などの病気が隠れていることもあります。これらは適切な治療で劇的に改善し、脳を守ることに直結します。質の高い睡眠こそが、翌日の脳を若々しく保つための最高のギフトなのです。
「グレーゾーン(MCI)」こそが、健康を取り戻すベストタイミング
もし今、「自分はもうボケ始めているのではないか」と不安でも、希望を捨てないでください。認知症の一歩手前である「MCI(軽度認知障害)」というグレーゾーンの状態であれば、適切な介入により約46%……およそ2人に1人が正常な状態まで回復したという報告(日本の国立長寿医療研究センターなどの研究)があります。※4
当院に通われていた70代の女性、Aさんもその一人でした。最初は糖尿病の数値が乱れ、表情も暗く、大好きだった編み物も辞めてしまっていました。私は家庭医療・総合診療の専門医として、認知症の薬を出すのではなく、まず糖尿病の管理と睡眠の改善を徹底しました。
すると半年後、Aさんは自分で編んだマフラーを巻いて、笑顔で診察室に来てくれたのです。血管が若返り、脳のゴミが掃除されたことで、本来の自分を取り戻されたんですね。一方で、何もせず放置すると約6割の方は認知症へと進行してしまうという厳しい現実もあります。だからこそ、「最近おかしいな」と感じた今この瞬間が、将来を守るためのラストチャンスであり、最高のタイミングなのです。
当院は認知症の専門診断を行う施設ではありませんが、糖尿病や睡眠不足を解消し、脳の老化を血管から防ぐ「予防のプロ」として、あなたを全力でサポートします。
参考文献・出典
※1:Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. 2020.
※2:Cotman CW, Berchtold NC. Exercise: a behavioral intervention to enhance brain health and plasticity. Trends Neurosci. 2002.
※3:糖尿病と認知症に関するデータ(日本糖尿病学会/日本認知症学会報告など)
※4:国立長寿医療研究センター「長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」報告

